日曜日の昼下がり、久しぶりの自由な時間。こんな時、私は相も変わらず、美味しい珈琲が飲めそうなお店を探しながら、厚木を練り歩く。
駅前の慌ただしい喧騒を避け、閑静な通りを進み、ふと立ち止まる。ゆっくり息を吸うと、芳しい豆の香りが身体中に入り込んできた。匂いの元をたどるとそこにあったのは自家焙煎珈琲「いる1ばん」だった。
扉を開けると、珈琲の味わい深い匂いが鼻をかすめ、小さく息を吸うと、お店の心地の良い雰囲気を身体中に纏うことができるようだった。これは、間違いなく他では味わえない。
「珈琲を一杯とチーズケーキをひとつ」
何種類もある珈琲のうち、迷いながら一つ選びマスターにそう伝えると、彼はお洒落なハットを、指で弾いてから優しく微笑んだ。センスのある色使いの看板と、金魚が自由奔放に水槽を泳ぎ回っているのが目に映る。珈琲豆を煎る音は、私の鼓膜を優しく揺らし、豆の匂いが体を満たす。
ほっと息をつく。注文した珈琲が運ばれ、それを一口飲むと、シンプルであるのに、芳しい珈琲の味わいと舌に伝わる丁度いいその熱がじんわりと身体を熱くした。
しばらくすると、扉が開き、1人の男性が入店した。
「豆を。」
彼はたくさんある生豆の中から三種類ほど頼み、その焙煎を待つ間、少しばかり会話を挟み、たまに遠くをみていた。まるで、現実から身を背け居心地のいい此処に心を通わせているようだった。嗚呼、わかる。此処は、本来の自分を取り戻すことができる場所だ。世の中の喧騒を飛び出して、私は此処にたどり着き、時間を忘れる時間を過ごした。
この良き時間を思い出しに、またここの珈琲をのみにこよう。
あつぎ珈琲 いる1ばん
厚木市旭町1-38-4 ☎︎046-227-3147
[営]平日 8:30〜20:00、日曜・祝祭日 13:00〜19:00 [休]下桁1の付く日が定休日